第30章 光秀と
「いや、会ってない。偶然、三成が茶屋の前を通りがかったのを、俺の手の者が見たが、全く騒動に気付かず、通り過ぎて行ったらしい」
期待したのと違う回答に秀吉は顔をしかめる。
「あいつ…一体何をしながら歩いてるんだ…」
「ああ。その時は町娘たちに囲まれて、何人かと一緒に歩いていたそうだ」
「まちむすめ…」
秀吉は脱力した。
何故か目に入る、と言った娘が目の前にいたのに、他の娘たちと歩いていたのか…
「まぁ、お守りも大変だな。秀吉、がんばれよ」
ぽんと秀吉の肩を、光秀は叩く。
「おい、光秀、それはないだろう」
「俺は忙しいし、こういう事は政宗が得意じゃないのか?」
光秀はにやりとして政宗の名を出すと、秀吉の前を去って行った。
「結局政宗に頼るか…いっその事、家康も巻き込むかな」
うんざり顔の家康が思い浮かぶ。
「…案外、家康を巻き込んだら面白いか…」
『俺には関係ないですよ。名前も呼びたくないやつの事なんか』
家康はこう、言いそうだ。
光秀にからかわれた反動で、家康を巻き込むことを想像し、茶目っ気を出した秀吉だった。