第29章 秀吉の想い
葉月は、春のところに手伝いに行くようになってから、秀吉の御殿に帰ると、もう、起きている気力が無い。
夕餉も食べず、さっさと寝る毎日になってしまった。
「え?今日も夕餉を食べずに寝てしまったのか?」
秀吉は葉月の様子を竹から聞いて、驚いた。
「一体あいつは何をしているんだ?」
竹はさらっと秀吉の欲しい答えを言う。
「そうおっしゃるだろうと思って、茶屋へ様子を見に行かせました。
例のあんず入りの羊羹を売り出して、全精力をつぎ込んでいるようですよ」
「竹…おまえは敵にしたくないな…」
秀吉の着替えを手伝い、最後に肩に羽織りを掛けた竹は微笑む。
「何をおっしゃいますやら。
私は幼い時からこちらに奉公にあがってましたからね。
秀吉様のお考えは手に取るようにわかるだけ、ですよ」
…やはり、最強の女中だな、と秀吉は思った。
「ああ、それで葉月だが…元気ではいるのか?」
「そうですね、元気と言えば元気なのでしょうけれど…申し上げましたが茶屋が大繁盛で休む間もないようですからね、いつまであの元気が続きますか」
「大繁盛…」