第28章 春のこと
恐る恐る聞いてみる。
「恨んでいないよ。戦で恨むのは相手の大将であって、自陣の大将を恨むのはお門違いさ」
きっぱりと春は言う。
「でもねぇ、思うんだよね。
最初の夫が違う陣にいたら、違う部隊に配属されていたら、死んでなかったかもって。
私にとっては、初めて恋仲になったおとこだったからねぇ。
戦から戻らなかった時は、本当に悲しかったね…」
葉月は自分の居る場所が、戦いの時代である事に改めて気付き、息を飲む。
『この時代は戦いの時代なんだ。
それぞれの正義で日本をものにしようとしている。
そしてその戦いに巻き込まれ、名も知らない人たちが大勢、死んでいる…』
「あんたが来た時代では戦はあるのかい?」
春が問う。
「ううん、もう、戦は無いよ。平和なひのもとだよ」
「そうかい、私も、次は、その平和な世に生まれ変わりたいものだねぇ」
戦は市井の人々の生活を一変させるんだ、と痛感した、春の若い頃の話しだった。