第190章 別れ
夢の中で富弥を通して佐助からもらった計算式を当てはめて、この日、この場所でと特定した位置へやってきた。
最初に戦国時代へ飛んでしまった場所と同じ場所だった。
「…ここなの?」
不思議がる母親に葉月は言う。
「ここだよ…私が初めて戦国へ行ったのもここだったから…」
全員でしんみりしそうだったが成がきゃっ、と喜んでその空気感を変える。
「じっ!ばっ!」
「ああ、成、抱っこするか?」
父親が相好を崩し成をチャイルドシートからおろすとそのまま抱き上げる。
成も外にいるのがわかって黙って抱き上げられ、あちらこちら指さししてあれは何と聞いていて、父親はひとつひとつ教えていた。
「ぶーぶー」
乗っていた車を指さし『車』と言う成に、みんな微笑ましい表情を見せるものの、それでももうこの姿は見られなくなり、成自身も戦国へ行ったら自動車の事はすぐ忘れるのだと思うと、葉月はやはり感傷的になる。
「…本音を言うと成ちゃんは置いていって欲しいけどねぇ…やっぱり親子は一緒じゃないとねぇ…」
母親が小声で言うが、わかっていてつぶやいているのだ。
「おかあさん、もうそれ以上は言わないよ。葉月と成を送りだしてやってあげて」
弥生が母親に頼むものの、その弥生も目線が頼りなく揺れていた。
全員で移動し、ワームホールが開く場所へ行く。
「ここ…この木…ほら、これ」
葉月が指差したのは、木についた雷によってこげた跡。
「これ、私が戦国に行った時の雷でこげた跡だよ」
かなり大きな焦げ跡に弥生たちはしげしげと見入る。
「結構大きな跡だね」
富谷が言い、焦げ跡を自分の手のひらで撫でる。