第189章 出発
成は既にチャイルドシートに乗せられ、車での外出にきゃっきゃっと喜んでいた。
成の隣に母親が座っていたので三列目のシートへ移動して、富谷の隣に座る。
「荷物、それだけなの?」
富谷にリュック一つの姿に驚かれる。
「そうです。こっちの時代のものは持って行かれないから、薬ばっかり入ってます」
わざと明るく答える葉月に富谷は「あぁ」と気付く。
「そうか…下手に持って行かれないよね、こっちの時代のものは…」
座ってシートベルトをつけると、それをバックミラーで見た父親がエンジンを掛け出発する。
「そうなんですよ。薬くらいなら何とか…成はとうとう予防接種全部打てなかったし…」
後ろを振り向いて家が見えなくなるまで無言だった葉月は、見えなくなってようやく前を向き富谷との会話を続けた。
「あ、確かにそれは心配だね」
「いちおう調べたらはしかあたりは、流行した事があるみたいなので…」
「とにかくからだだけは気を付けて…」
富谷も何を言ったら良いのかわからず、無難な言葉を言うのみになってしまう。
車内は無言の空気に包まれ、そのまま葉月が以前剣道の段審査を受ける会場の建物の近くへ到着する。
「車、ここの駐車場に置いておこう」