第189章 出発
「そろそろ行こうか」
弥生が声を掛けると一気に緊張した雰囲気が漂う。
相変わらず反対する父親だが、母親の説得、弥生と富谷が結婚するということで少し態度が軟化し、とにかく一緒にワームホールの開くところへ行く事にする。
「荷物、持って来る」
小さなリュックを部屋から持ってきた葉月は、成を抱っこして「お出掛けするよ」と声を掛ける。
外へ出られるのがわかった成は「そっ!そっ!」と足をばたばたさせ、そんな様子も見られなくなる両親は感極まった表情を瞬間見せた。
葉月はその両親の表情に気付いたものの、どうしようもなく黙ったまま「よし、行こうか」と成に小さな靴を履かせた。
弥生が自分の小さな車を出そうとしたが全員乗れないので、父親が車を出してきてそちらに全員乗り込む。
車に乗る前に葉月はじっと店を兼用している自宅をじっと見つめる。
「どうしたの?」
弥生に問われると葉月は少し涙目になって小さい声で答える。
「うん…家をね、忘れないように見てた」
「…そっか…」
そして葉月は自分だけに聞こえる小さい声で言った。
「今迄ありがとう。さようなら」
家に挨拶をすると後ろ髪を引かれる思いを振り払い、車に乗り込んだ。