第187章 富谷の挨拶
「そうですか…いや…弥生はてっきり結婚はしないと思っていまして…」
父親は複雑な表情で言う。
「大学を出てなんですか、キャリアとして働いている姿を見てきましたので、まさか結婚するとは思っておりませんで…」
「クリニックなら家も近いですし、何かあってもこちらと行き来はしやすいので、その点は問題は無いかと思います。今の職場からクリニックの窓口の仕事に変わってもらう事になるので面白味は無いでしょうし、看護師や両親と同じ仕事場になるので気苦労も多くなると思います。ただ住むところは別ですので、その点は安心して欲しいと思います。勿論今すぐの話しではなく、弥生さんの仕事がある程度段落をつけて、引き継ぎがきちんと出来てからの話しですが」
適切に話しをする富谷に、両親はすっかり頷いてその気になってしまっていた
「弥生、貴女、こんな良いお話しを黙っているなんて…」
母親に言われ、弥生はまゆをひそめる。
「いや、だから、葉月の事が片付いてからだと思ってね…」
「ところで富谷さん、お疲れなのでしょう?客間におふとん敷きますから、少し寝ますか?」
母親は富谷が葉月の事で来たのを思い出し、まだ時間があるから、と暗に仮眠を勧め、富谷も「たすかります」と部屋を借り、数時間の仮眠をとることにした。
弥生が客間へ案内し、布団を敷いて富谷を休ませるとひとりで台所へ戻ってくる。
「とりあえず、私の事は置いてもらう。とにかくあと数時間で葉月と成は出発するから」
きっぱりと言い切る弥生の言に、両親は黙り、特に父親がまた眉間にしわを寄せて難しい顔を見せる。
「おとうさん、お願いだから葉月と成を行かせて欲しい」と弥生はまた頼むのだった。