第186章 会話
そんないつもの様子の中、母親が口をとうとう開いた。
「葉月、貴女、今日なんでしょう?」
その指摘に瞬間、からだが硬直する。
父親も一瞬全身を強張らせ、そして母親に目を向ける。
「おい、何の事だ?戦国に行くとやらの話しなら、俺は許可していないぞ?」
父親の怒りを流すように、母親は落ち着いた様子のまま話す。
「おとうさん、何度も言いましたよ。葉月はひとりの人であって、私たちの人形ではないんです。葉月の人生は葉月のもの、私たちが人生を邪魔してはいけないんです」
まっとうな母親の言い分に、それでも父親は反論する。
「それはわかるが、成だっているんだ。今の…このどこかに居るなら何も反対はしない。だが戦国なんて遠い昔だし、翌日生きていられるかすらわからないような時代に行きたいなんて、親として許す訳にはいかないだろう。それも歴史とは違うと言っても相手は石田三成。大坂城で負けて首をはねられる立場のおとこだ。そういうところの息子なら、成だって首をはねられるんだぞ、わかっているのか?」
一気にまくしたてられるものの、葉月も誤解を解くのに必死だ。
「だから、何度も言っている通り、私の行く戦国時代は歴史とは違う。本能寺で織田信長は助けられて生きていて、豊臣秀吉も言われているような女好きじゃないし、石田三成も織田信長が生きているから、大坂城の戦いはおこらないから戦って死ぬ訳じゃないって」
父親は首を左右に振りながら反論する。
「どうやってそれを信じろ、と言うんだ。違う歴史だなんて信じられないだろう。今もテレビでやっているじゃないか、本能寺で織田信長は明智光秀に討たれた、と。違うと説明されても信じようがないだろう。歴史は今迄通りじゃないか」
「でも、違うの、私のいくところは違うの」