第185章 さよならの朝
「はいはい、成はおじいちゃんとおばあちゃんに会いたいのね」
抱き上げ下へ降り、廊下でおろすと伝い歩きで両親の部屋へずいずいと歩き、部屋の戸をばんばん叩いて両親を起こす。
「成ちゃん、おはよう。起こしにきてくれたのね」
そう言いながら戸を開けるのは母親で、そのまま満足そうに成は両親の部屋へ入っていく。
戸越しに父親の「成、今日も元気か?」、といった声が漏れ聞こえてくるのもいつもの事だ。
そんな様子が見られるのも今日が最後だ、と思うと葉月には感慨深い。
大きく息を吐くとまた台所に戻り、間もなく降りてくる弥生を待つ間、コーヒーを淹れる。
「あ…コーヒーも飲めるのも最後か…」
香りをゆっくりと鼻に通し、コーヒーを味わうのも最後かぁ、と喉へ落とす。
何もかも最後、もう手元には出来ないものばかりを思い、葉月はこんなに感傷的になってしまって戦国でやっていけるのだろうか、と途端に不安に思う。
「でも…あっちに居た数か月…思い出すと、何も無くてもあんまり気にしてなかったかも…それどころじゃなかったってのも大きいけどね…」
振り払うようにつぶやきながらコーヒーを飲んでいると、弥生が「おはよう」と降りてきた。
「いよいよだけど…落ち着いてる?」
弥生は小さく笑顔を向け、葉月は「うん」と返事をしながらも答える。
「なんだろうね…もう最後だと思うと…何を見ても感傷的になってるよ」
「そりゃそうだ。もう二度とこっちには戻らないんだから」