第184章 ボールペン
「舞様、いらっしゃい」
春の茶屋へ顔を出した舞と佐助は、春に声を掛ける。
「すみません、手が空いてからで良いので、富弥さんと話しをさせてもらえますか?」
「ちょっと今はこのようにお客さんが多くて…待っていただいてよろしいですか?」
春の、あくまでも『姫様』に対する態度に小さく苦笑しながらも舞は頷く。
「忙しいところに来たので待ってます…あ、お茶と羊羹をふたつずつお願いしますね」
そのまま自分と佐助の分のお茶を注文して、富弥の空く時間が出来るまでのんびり待つ事にする。
「あぁ、こういうのんびりした時間、久し振りだなぁ」
羊羹をひとくち、ぱくりと口にした佐助が伸びをする。
「やっぱり普段は忙しいんだ?」
舞が聞くと佐助は目を細める。
「いや、忙しいというより、何と言うか、上司の扱いにてこずるというか…」
「上司?あぁ、あの…」
安土の城下であり、下手に上杉謙信の名前を出す訳にはいかず、二人は『上司』という言葉で濁す。
「…そんなに大変なの?その…上司…さんは…」
「まぁ基本構ってあげていれば良いんだけどね、愛情深いひとなんだけど、その示しかたがなんというか…なかなかハードでね」
佐助の言葉が理解出来ず、舞はまゆをひそめる。