第183章 前夜
母親の気に掛けている真剣な様子に葉月は苦笑する。
「大丈夫だよ、私のいく戦国時代は歴史の戦国時代と違うようで、おんな好きではなくて、すごく面倒見の良い人だから」
「戦国時代が違うっていうのがよくわからないけれど、とにかくおかあさんは、貴女と成ちゃんが幸せでいてくれる事が望みだから」
母親は立つとベビーベッドで眠る成の顔を覗き込む。
「もう、この顔も見られないのねぇ。どんな風に大きくなってどんな子に育つのか、楽しみにしていたんだけどねぇ」
しみじみと言う母親に、葉月は涙を我慢して言う。
「本当におとうさんとおかあさんにはごめんなさい。でも…」
「それ以上は言わなくて良いのよ。貴女の人生だからね…」
母親も涙を我慢しているような声音になりつつ、そして顔を見せず「じゃあ、また明日ね」と部屋を出て行った。
「…おかあさん…」
葉月は唇を噛みしめ、泣かないと我慢する。
その二人の姿を見て、弥生も泣きそうになるのをぐっとこらえて葉月に言う。
「じゃあ、また明日。眠れないかもしれないけれど、戦国へ行ってから何があるかわからないから、きちんと寝ておきなさいよ?」
「うん、わかった…おねえちゃんも富谷さんもありがとう…」
葉月の言葉に弥生は小さく微笑んで言った。
「富谷くんには伝えておくね」