第181章 別れの準備
そう言いつつ、葉月は苦笑する。
「でも戦国では武士になるでしょ、成は。そうしたら『父上』『母上』なんだよねぇ」
「それは現代では使えないねぇ」
弥生は抱き上げた成を、腋の下に両手を入れてぶらぶらと左右に振ってやると、楽しいらしくきゃっきゃっと喜ぶ。
「…そうだよねぇ…もうすぐこの笑い声も聞けなくなっちゃうんだねぇ…」
喜ぶ成の姿を見ながら弥生がしみじみ言う。
「おとうさんとおかあさんが反対するのもわかるなぁ…成、あんたがいなくなったら淋しいねぇ…」
成を笑わせながらもしんみりした事を言う弥生に、葉月は何を言っていいかわからない。
「おねえちゃんもそう思うんだ…」
「そりゃそうでしょ、これだけ家の中を明るくしてくれた子が、急に居なくなったら、ねぇ…でも…仕方ないからね…」
そして弥生は左右に成を揺すっていた手を止め、成を自分の目線まで持ち上げて言う。
「戦国へ行ったら立派な武士になるのよ。あんたはおとうさんを助けて、最後まで生きていられるようになりなさい」
最後は少し涙声になる弥生に、葉月も鼻をすすってしまう。
「やぁね、おねえちゃんまで湿っちゃって…」
「…最後まで生きてね。本来の歴史の通りにならないようにね…」
それは、あの、石田三成の命の終わる大坂城の戦を回避するよう生きろ、という事だ。