第180章 葛藤
「…葉月はやはり戦国へ行くつもりなのだろう?」
父親から問われ、母親は一瞬口ごもるものの、誤魔化しはきかないと判断する。
「そうだったらどうするんですか?」
洗濯物を畳みながら母親は答え、父親は読み終えたらしい新聞を畳みながら言う。
「俺は訳がわからないし、危険な戦国時代へ行くなんて馬鹿な話し、了解は出来ない。でも葉月が相当葛藤しているのは見ていてわかる」
「…あのこも相当迷っているんですよ。成の父親の許へ行きたい、でも、私やおとうさんが成ちゃんを可愛がっているのをわかっているから、二度と会う事の出来ない時代へ行ってしまって良いのか、今のように医療体勢も揃ってないし、毎日が戦争のような時代で無事に生きられるかすらわからないし…」
母親はひといきに葉月の気持ちを伝えると、それからひと呼吸置いて言った。
「私は葉月と成ちゃんが戦国時代へ行っても良いと思ってますよ」
妻の一言に父親はバンと茶卓に新聞を叩き付ける。
「…おい、それは…!」
その音にびくりと母親はからだを一瞬すくませるものの、毅然と言葉を繋ぐ。
「葉月は私たちの娘です。でも娘の前にひとりの人間なんです。私たち家族以外の人を愛するひとりの女性なんです。それをわかってやってください。たまたまあの子の好きになった人が、この時代に居ないという事なんです」
母親がいつの間にか葉月の味方になっていた事に父親は呆然とするが、首を左右に振り頑として受け入れる事は難しい。
「俺は反対だ。葉月は俺の娘で成は俺の孫だ。近くに住んで暮らしているならともかく、行ったら二度と会えない時代へ行くなんて馬鹿な話し、誰が信じられるか、俺は絶対行かせない」
頑固な父親の強い口調に、洗濯物を畳み終えた母親は、小さくため息をついた。
『おとうさんはなかなか折れそうにないわねぇ…葉月…骨が折れるけれど、ちゃんと乗り越えなさいな…』