第180章 葛藤
太り始めた半月を見上げる葉月の腕の中には、授乳を終えてすやすやと眠る成がいた。
「ずいぶん大きくなったなぁ…」
丸々としたからだはおとこのこらしくずっしりと骨が太く、同じ月齢のあかんぼうと比べても大きめといってもいいくらいだ。
「成…もうすぐ、この時代ともさよならなんだよ…」
ごく小さい声で成に話し掛ける葉月の視線の先には、戦国に持って行く物を入れたかばんが置かれていた。
最近の様子から、父親は葉月が戦国へ戻るのを諦めたように思っているらしく、また、しょっちゅう成を預ける事もあって、ひとり機嫌が良い。
成の成長を一番喜んでいるのは自分の父親だという事を考えて、葉月は涙をこぼす。
「…おとうさん、ごめんなさい…」
母親には戦国に戻る事は伝えているから、どう思っているかはともかく葉月と成がいつか目の前からいなくなる事はわかっている。
でも父親には黙って突然消える事になり、去った後の落胆ぶりを想像すると、母親や弥生に申し訳ないな、と葛藤を止める事が出来ない。
でも、でも、でも、決めたのだ、戻る事を。
眠る成を起こさないようにそっと立ち上がり、ベビーベッドに成を寝かせると口をもぐもぐと動かし、そんな仕草も可愛いと親ばかになってしまう葉月なのだから、両親にとっては目に入れて痛くない初孫の可愛い仕草を見ていたいのは当然だろう。
ふぅ、とため息をつき、葉月は自身もベッドにもぐりこむ。
「あと…もうすこし…」そう言って目を閉じた。