第179章 安土の広間
「あんた、馬鹿なの?ここにいる俺たちは、ほとんどがあんたの言う家族とやらには縁遠い者ばかりだよ」
言われて舞はぱちくりと瞬きをし、すぐ、頭を巡らせて武将たちの本来の歴史を思い起こす。
言われてみれば、身内同士で戦ったり、人質の時が長かったり、幼くても波乱の人生を送っている者ばかりで、この時代では舞のように可愛がられて育ったほうが珍しいだろう。
「あ…」
気付いて小さく声をあげる舞の様子に気付いた信長は、助け船を出すように言う。
「貴様が思ったより肝の据わっているのは、祖父母に育てられたからだろうな」
そして手にしていた扇を開いてぱちりと閉じると、それで舞を指す。
「全てはわかった。もう遅いから下がって休め」
「…っ、はい…失礼します…」
三つ指ついて頭を下げると舞は広間を出て、自室へ戻るため廊下を歩きながら、自分で言った事を思い起こす。
『そうだよね…本来の歴史だと…あのかたたちは家族には恵まれてないかたが多いんだっけ…ある人は身内に殺されそうになって反対に殺して、別な人も兄弟可愛さに殺されそうになったり…人質としての年数が長かったり…それに比べたら両親が死んでも、おじいちゃんおばあちゃんに可愛がってもらった私は恵まれている…やっぱり甘ちゃんなのは、そういうところなのかもしれないな…』
「葉月さん…戻ってこられるのかな…」
部屋へ入る直前に舞は夜空に浮かぶ半月を見上げ、現代で同じ月を見ているかもしれない葉月を気にするのだった。