第177章 成、しゃべる
そのまま食べている姿もビデオに撮る両親に、葉月は無言で成にごはんを食べさせる。
-もうすぐ、私たちは居なくなる。
-だからいっぱい成を撮影して、この姿を忘れないで。
そんな事を口にしたら父親にはまたも反対され、自分も泣きそうになる。
だから葉月は何も口を開かず、黙って成に食事を摂らせた。
「へぇ、成、しゃべりだしたんだ?」
夜になって弥生が帰宅すると、葉月は成の事を話す。
「それもじじ、ばば、となったら、おとうさん達大喜びだったでしょ」
弥生は葉月によそってもらった味噌汁の椀を手にし、口にしながら言う。
「うん、大喜びでビデオ撮ってた」
「まぁいっぱい撮らせてあげなよ。これ以上の成長を見る事が出来ないんだからさ」
「…わかってるよ…あんなに喜んでいるのを見ると、やっぱり悪いなぁって思うね…」
「でも、行くんでしょ?」
しょぼくれる葉月に魚をほぐしながら弥生はさらりと言い、葉月は頷く。
「それはそうだけど…」
「だったら、あれこれ言っても仕方ない。腹くくんなさい」
ぽい、と梅干しを一個口に放り込んだ弥生は、途端酸っぱいと顔をしかめた。
「わかってるよ…」と葉月は悩ましい表情のまま、大きくため息をついた。