第175章 弥生の結婚?
問われて、弥生は後頭部をぽり、と掻く。
「ん、まぁ…仕事も有るし、結婚自体考えた事あんまりなかったけれどね…でも、私の仕事は誰でも出来るようなもので『私じゃないと』ってものでもないし、それに富谷くんは優良物件だしクリニックを手伝う立場になっても良いかな、って思わない訳でも無いんだよね」
弥生の多少困ったような表情に、自分の置かれている状況を冷静に判断しながら、どう動けば一番人生にプラスになっていくか考えているようだった。
「…富谷さんって医者の家なら、学生の時からさぞモテたと思うけど…でも、おねえちゃんなんだね?」
ふと気付いたように葉月が言うと、弥生が明らかに口をへの字にした。
「姉に向かって結構失礼な事言うわね。まぁ否定はしないよ、富谷くんの家が医者の家系だとわかると、おんなのこ達が確かに一番集まってたね。でも…思い出すと特定の子と付き合う様子も無かったみたいなんだよねぇ…それにおにいさんがいるんだけど、既に結婚されてて相手のおうちも医者で、相手のおうちのほうを継ぐらしいから、富谷のクリニックは富谷くんが継ぐらしくて、そういう事も既に決まっているんだって」
弥生の言葉にさすがに葉月も驚いて目をぱちくりさせる。
「…おねえちゃん、相当家のこと、聞いてるんだね。それってやっぱり富谷さんはおねえちゃんと結婚したいんだと思うよ」
「…まぁ、最終的に決めるのは私だし、今はこっちの事どころじゃないでしょ。葉月と成が戦国へ無事に戻れるか、だし、そのうろうろしながら悩んでいる持ち物をさっさと準備したほうが良いよ」
「…わかってる」
話しを切り上げ、支度に戻る葉月を見て、弥生も部屋を出ようとした時、葉月がぼそりと話し掛ける。
「…おねえちゃんが結婚決まっても…私も成も、結婚式には出られないね…」
「そこまで待っていたら戦国へ戻れないよ?」
茶化すように弥生は言って部屋を出ようとする。
「こっちの事は気にしないで、葉月は成と戦国へ戻る事だけ考えなさい」
「…ありがとう」
小さい声で礼を述べる葉月。
その声には涙ぐんだ様子が含まれていたものの、弥生は気付かない振りをして部屋を出た。