第22章 剣道形
構えて、仕太刀一本目は諸手右上段。
右足から進み、間合いに接し、左足から送り足でからだを少し後ろに引く。
同時に諸手も後ろに引き、打太刀の剣先を抜く。
「二人一組、という事か」
「もう一人いるとわかりやすいのだが、残念だ」
「形はきちんとしていて、鍛錬をしてきているのがわかるな」
「やっぱり所作が美しいですね」
武将様がたは、打太刀と仕太刀をそれぞれ最後まで披露した形を見て、感心する。
披露後、葉月は足を洗わせてもらい、着替え用の部屋に戻り、道着と袴を脱ぐ。
一緒に持ってきた、いつもの紫苑色の格子柄の小袖に着替える。
丁寧に桔梗色の着物は畳んで、風呂敷に包み、秀吉に返せるようにしておく。
葉月は荷物と木刀を入れた袋を持ち、ぐるりと周囲を見回し、忘れ物がないか確認し、部屋を出た。
広間に戻るのかと思っていたが、近くに控えていた織田家の家臣のかたから、先に秀吉の御殿に帰っているように伝えられた。
伝言で済まされる程度の人物か。
葉月は自分の存在意義の無さに少し淋しくなった。