第174章 説得
母親はそれでも静かに葉月へ言う。
「葉月の言い分はわかったわ。同じおんなという立場からみれば、葉月が愛する人のところへ行かせてあげたい。でも私はそれ以前に貴女の母親という立場だから、葉月と成ちゃんを二度と会えないところへ行かせる訳にはいかない」
「…おかあさん…」
一瞬同意してくれた事に目を輝かせた葉月だったが、母親の立場から行かせられないと告げられ葉月の表情が曇る。
「とても複雑ね…」
母親は大きくため息をつく。
「もともと娘は手から離れていくものだけど…それでも同じ地球に居て必ず会えると思っているのが当然なのだもの。でも葉月は違う。信じられないけれど、こことは違う次元へ行きたい、そしてそこへ行ったらもう二度と会えないのだからねぇ…何かのアニメみたいに気軽に時を超える機械が有れば良いのにね」
母親の複雑な心境を覗かせた表情と言葉に、葉月は絶句する。
「…ごめんなさい…でもお願い、行かせて…苦労するかもしれないし、命の危険がここより有ると思う。でも…でも…戻りたいの…」
頭を下げる葉月に、母親は大きく息を吐いて、とうとう言った。
「おとうさんには何も言わない。そこまで葉月が望むなら、成ちゃんが危険の無いように支度して行きなさい。貴女の幸せが戦国時代に有るなら、そこで必ず幸せになってちょうだい。石田三成の最期は、歴史上敗者として良くないものだけど、貴女と成ちゃんのちからでその不幸を変えて、必ず幸せになりなさい。おかあさんはこの時代で貴女たちの生き様を見守るから」
母親はそう言って、静かに涙を一筋流す。
葉月にとって、初めて見た母親の涙だった。
「…おかあさん…ごめんなさい…ありがとう…」
母親を見て葉月も涙をあふれさせ、母親に抱き着いた。
「…おかあさん…」
「…全面的に応援は出来ないけれど…葉月の幸せがあるところへ行きなさい…」
二人でぎゅうと抱き合い、泣きながら生き方について話した。