第173章 戦国時代で起きたこと
言いにくそうに、でも、親として言わなくては、と言う話しかたに葉月も複雑な表情を見せる。
「わかるけど…わかるけど…私は戦国時代へ戻りたい。成を連れて成の父親の待つところへ行きたいよ」
葉月は立ち上がると、仕舞っていた三成の文を取り出し、母親の前で広げた。
「これ、舞さんを迎えにきた人が持ってきてくれた手紙。石田三成の字だよ。簡単に言うと私に元気ですかって、そして私と成に会えるのを待ってるって書いてあるの」
今の時代には見慣れない筆を使った字をさらりと読む葉月と、その文自体を見て、否が応にも母親は、葉月が戦国時代に行っていた事を認識せざるを得なかった。
「その…石田三成さんは…成が生まれたのは知ってるの?」
母親は石田三成をさん付けで呼び、成の事は知っているのか尋ねる。
「生まれたかどうかまでは、はっきりとは知らない。だけど舞さんが戻る時に、スマホの録画機能で出産前の姿を映して持って行ってもらったから、その姿は見てると思う。それに舞さんと戻らなかったのは、あの時はまだ成が逆子だったからで、そのあたりは舞さんも説明してくれてるはず」
「生まれてるかどうか、はっきり向こうはわかってないなら、戻る事は無いんじゃない?」
あくまで反対な母親に、葉月はしかし静かに説得する。
「成を父親に会わせたい。成は父親そっくりだし、頭の良さも父親譲りなんだ。おかあさんの言いたい事わかるよ。現代に居たほうが安全だし、長く生きられるだろうし、戦争もない。でも…私は…石田三成に会いたい。あの人の隣で生きていきたい」
葉月の言葉に母親は息を呑む。
目の前の、おとなしくて言う事を聞いていた妹娘はどこかへ行き、一人のおとこを愛するおんなが代わりに姿を見せていた。