第172章 母親の気持ち
翌朝も両親の機嫌はすこぶる悪かった。
「外出は絶対させないからな」
父親は茶碗を持ったまま低い声で、葉月を睨んで言う。
「…」
葉月も弥生も父親の言葉は無視して、無言のまま箸を動かした。
「じゃ、私は仕事に行ってきます」
食べ終わった弥生は食器を流しに片付け、出勤の支度に席を立つ。
そして葉月は成に離乳食を用意する。
「成、ごはんだよ」
テーブルの下で這っていた成は『ごはん』の呼びかけに「ほげっ」と応え、ばたばたと葉月へ近寄り、葉月は成を抱き上げベビーチェアに座らせるとエプロンをした。
「ほげっほげっ」
ばんばんと早くくれ、とテーブルを叩く成に父親が話し掛ける。
「成はここの食べ物が美味しいから、ここに居るのが良いよなぁ」
話し掛けられた成はにこにこして、益々テーブルを叩く。
離乳食を持って隣に座った葉月に、父親は呟くように言う。
「成はここの食べ物がうまいから、ここに居ると言っているぞ」
「…はい、成、ごはんだよ」
父親の言葉は聞かない振りをして、離乳食を運ぶとぱくりと口にする成に話し掛ける。