第169章 夢から覚めて
「俺は歴史は詳しくないけれど、上杉謙信や武田信玄はもう死んでいるはずで、その人達が生きている?」
「そう、年齢も全く違う。だから私達の知る歴史と違うところみたい」
「でも、とにかく小さい子を連れて乱世へ戻るなんて無謀だよ」
「そうかもね。でも私は葉月を石田三成のところへ戻してあげたい」
「弥生さん…」
お互い主張し、それでも弥生のきっぱりとした言いかたに、富谷は息を呑む。
「…わかったよ、俺が手伝える事は?」
しばらくして富谷が口を開く。
「…今はないけれど、有ったら手伝って欲しい」
「…わかった。乗りかかった舟だ、俺も手伝うよ」
富谷は大きくため息をついて、そしてコップの水を飲んだ。
「…ありがとう」
弥生は少し微笑み、富谷と同様にコップの水を口元に運ぶ。
「だからって訳じゃないけれど、今日は…」
富谷は空いている弥生の手に、自分の手をそっと重ねる。
「俺の弥生さんでいてもらう」
ゆらりと富谷の目の奥にほのかな熱が灯るのを、弥生は気付き、小さく息を吐いて弥生は苦笑したように言った。
「富谷くん、ほんと、貴方、頭良いのか悪いのか、わからない…」