第169章 夢から覚めて
「はい、式の修正」
いつものレストランで二人は顔を向き合わせ、富谷は弥生に紙束を渡す。
「…どうやって…」
弥生は紙束を受け取り、一枚ずつめくりつつ、途中から式に書き込みがあるのを見て絶句する。
「俺も不思議な経験したよ」
富谷は肘をテーブルに置いて両手を組み、その手の上に顎を乗せる。
「…不思議な経験?」
「ああ…夢の中で、葉月さんが戦国時代で会っていた、俺にそっくりの富弥というおとこに何度も会ったよ」
「それは…」
口を挟もうとした弥生の唇の前に、立てた人差し指を一本出し、富谷は話しを続ける。
「これを印刷して持って寝たら現れたんだ、富弥が。それで彼も猿飛佐助から預かった紙束を持っていたから、俺は彼の前で並べて式を突き合わせ、途中から違っているので持っていたボールペンで訂正をし出した。すると富弥は俺の持っていたボールペンに興味を持って、何だと聞いてきたから説明したんだ。最後まで確認した後、ボールペンを見たいというから富弥に見せた。見せている間に何かに引っ張られる感覚がして、目が覚めた。そして、目が覚めたら周囲に紙が散らばり、探しても持っていたボールペンが見付からない」
富谷はコップの水を一口飲み、続ける。
「ただの俺の願望を表した夢だと思っていた。話しを聞いて、そういう人物が出てきただけだと思っていた。でも、この夢の中で直した式、見付からないボールペン、それを考えると俺は本当に自分の夢の中で富弥という遠い歴史に暮らすおとこに会って、ボールペンを渡してしまったようなんだ」