第167章 計算式
座った弥生の足に何かが触れ、テーブルの下を覗くと、成がハイハイしていた。
「え…成、ハイハイ出来るようになったの!?」
驚く弥生に、目が合った成はにっこりして「ほげ」と言った。
テーブルから顔をあげて、弥生は葉月に言う。
「ちょっと、昨日までずりずりやってころんころん転がっていたのに、ハイハイして動き回ってるじゃない?」
「うん、そう。ハイハイで前を見るようになったら、頭ゴンしないでしょ、って言ったらハイハイ始めた」
温まったおかずをお皿に移しながら、葉月は言う。
「は?」
「何かね、成、おとなの言ってる事、理解しているみたいなの」
葉月の表情はおかしそうに、テーブルの下にいる成を見た。
「は?一体どういう…?」
「だからね、頭ゴンするから、ハイハイして顔をまっすぐ向ければ、って言ったら、お尻を突き上げてハイハイを始めたの」
「それ、たまたまだったんじゃないの」
首を傾げる弥生に、葉月は同じ事を繰り返し、口をとがらせる。
「でも不思議なんだよねぇ。こっちが言ったら、それを訂正するように、成って行動を変えるんだよねぇ。あ、注射が嫌いで、ぎゃん泣きするのは変わらないけれど。人の言った事を、理解しているとしか思えないタイミングで動いてくるんだよねぇ…」
葉月の言葉に、弥生は下をまた覗き込み、目の合った成が嬉しそうに笑うのを見た。