第167章 計算式
「とにかく乗って?家に送るから、着くまで寝ていていいよ」
「うん…悪いね」
助手席に乗り込んだ富谷は眠そうに言うものの、シートベルトを付ける前に弥生に覆いかぶさるようにからだを傾け、弥生にキスをする。
「…んっ…」
乗り込む前に富谷は口にしたのだろうか、ミントタブレットのような爽やかな味が弥生の口の中にも広がる。
富谷は唇を離すと、シートベルトを付け、ため息と共に言う。
「はぁ…弥生さん…抱きたい…けれど…ほんとにごめんなさい、疲れてるんだ…」
「わかったよ、とにかく家まで送るから、それ迄寝ていて?あ、その前に忘れるといけないから、はい、ワームホールの計算式のUSB」
小さな黒いUSBを渡すと、富谷はすぐポケットにしまい、小さく笑う。
「ありがとう。印刷して抱えて寝て、戦国の富弥と会っても困らないようにしておかないと」
車を発進させると、相当疲れているのか、富谷はすぐ車体に寄りかかり寝息をたてた。
「いったいどれだけ忙しかったんだろう?研修医ってそんなにハードなのかな?」
運転しながらひとりごちる弥生だった。
そして、車は富谷の例のクリニックをやっている家に到着する。
「富谷くん、起きて。家に着いたよ」
運転席から揺すると、しばらくしてようやく富谷はううん、と目を覚ます。