第167章 計算式
夜勤の仕事が終わると、富谷はすぐ、弥生へ電話を入れる。
「富谷くん?どうしたの?」
数回のコール後、離席して電話に出たらしい弥生の、靴音が少し聞こえてくる。
「ごめん、忙しい?」
「いちお、仕事中だからね。手短にお願いします」
くすり、とちょっと笑う弥生の声に、富谷は早急に弥生と会いたい理由を伝える。
「じゃ、結論から。弥生さんの計算したワームホールの計算式、あれを至急俺に貸して欲しい。理由は、俺が、二度、夢を見て、戦国の富弥って俺と似たおとこと直接口を聞いたんだ。そいつと話して、猿飛佐助から計算式を借りて、持ってきてもらうよう頼んだ。だから、いつ、夢でそいつと話しても良いように、比較するために弥生さんの式を持っていたい」
「…それ、ただの夢じゃないの…?」
訝し気にまゆを寄せているだろう、と富谷は弥生の表情を想像する。
「そうも思うけれど、普段俺は夢で会話なんてしない。何かしゃべっていたとしても、何をしゃべっているのかすらわからない、音声無しの夢なんだ。だから富弥と話して、その内容を覚えているし、自分が質問したい事をきちんと聞いている事も、考えにくいけれど、夢の中で俺と富弥が本当に会っているとしか思えない。ワームホールについては、弥生さんのと猿飛佐助のデータを比較する為に借りたいんだ。持って行けるかわからないけれど、シャツの中にも仕込んで持っていってみようと思ってるよ」
黙って富谷の話しを聞いていた弥生は、電話の向こうで頷いたようだった。
「わかった、今はデータだけ持っているの。だから今日渡すなら、一度家に帰って印刷をしなきゃいけないからちょっと時間かかるかもしれないよ」
すると富谷は言う。
「今日は俺、夜勤明けで時間があるんだ。データを貸してくれれば良いよ」