第164章 富谷の夢
富弥はきょろきょろとして、そして、ようやく、俺のほうへ目線を向ける。
するとそれまで見えていた景色が全て消え、富弥の姿だけが背景が白くなった中に浮かび上がっていた。
「へぇ…俺とそっくりなやつがいるな。それになんだ?妙な恰好をしているな」
「俺も富谷と言う。俺はおまえとは違う時代のものだ」
「違う時代?言ってる事がわからねぇな。どういう事だ?」
富弥は片足のつまさきで、実際は無いものの、小石を蹴るような仕草をする。
「俺が存在する時代は、おまえがいる時代から500年程後なんだ」
俺の言葉を聞いて、目を丸くする富弥。
「それじゃあ、あんたの時代は、舞様や葉月と同じって事かい?」
富弥の言葉に、今度は俺が目を丸くする。
「なんで二人の名前を知っているんだ…!」
「それはこっちが聞きたいくらいですぇ」
俺は口を開く。
「俺は葉月さんのおねえさんと知り合いなんだ。舞さんは名前を聞いている」
「さようですか。舞様は茶屋の客で、葉月は俺の前にここで働いていて、俺をばしばし鍛えていった人ですよ」
富弥の話しは、葉月さんから聞いた事と同じだ。
という事は目の前に立つのは、まさしく戦国に生きる富弥という、葉月さんから聞いたおとこで相違ない、俺はそう判断した。