第21章 織田信長
「刀を持った事がない」
と言って、立ち上がり、すっきりとした後ろ姿を見せて上段へ戻る。
「この刀を持たせたら、重くて扱えておらぬ」
小姓に刀を渡しながら上段にあがり、また、脇息によりかかる。
秀吉から合図があり、また頭を畳にすりつける。
「それに隙がありすぎる。
こんなのが上杉の忍びのはず、無い」
「…では、御館様のお咎めは無しという事でよろしいですか」
秀吉は問う。
「俺からは何も無い。安土で暮らしたければ暮らせば良い。
三成が所望するなら三成にくれてやれ」
葉月は自分の事を言われているのだが、放心状態で信長の言を聞かず、
ぼんやり『みつなり』だけ耳に入れた。
『ああ、これで何度目かな、みつなり』
瞬間、気付く。
『わかった!石田三成だ!
大坂の陣で豊臣側にいて、確か、最期は結構悲惨な人…』
ふと。
先程とは違うおとなしやかな足さばきで、畳を擦って歩み寄る人。
目の端に足と袴の裾が映る。