第160章 富谷に会う
「ほげほげ」
抱かれたまま、成はにこにこして手足をばたつかせると、葉月の母親は破顔する。
「成ちゃんはいいこねー」
一方、発進させた車の中で、葉月は固まっていた。
「なんか…緊張してない?」
弥生が運転しながら助手席をちらりと見ると、固い顔をした葉月の顔は青ざめている。
「あのさ、おねえちゃん…私、車に乗るの、成を出産して退院の時に乗ったくらいで、久し振りなの…だからあんまり飛ばさないで…速いの怖い…」
「…は?だって今、50キロも出てないよ?おとうさんが運転したら、私以上に飛ばしてるでしょう?」
「だって…何か…この車、揺れるんだもん…それにすごく体感速度を速く感じる」
確かに軽自動車だから揺れやすいのは否めないが、この程度で速く感じるとは葉月の頭の中は、相当戦国ずれしてしまったらしい。
「戦国時代は移動手段は馬だよね?馬に乗る事はなかったの?」
「ない、ない、よ!私は安土から外に出る事なかったからね。それに最初は上杉って名字だから、上杉謙信のスパイと思われて、疑われていたんだから」
馬にも乗らずに過ごしていたなら、車も速く感じるのも当然かもしれない、弥生は思う。
「戦国は何事もゆったりしていたんだねぇ…」
弥生はハンドルを握ったままつぶやくと、葉月が思い出したように言う。
「あ、そうそう、戦国時代って余計な灯りが無いから、星はすごく綺麗だったよ」