第154章 現代の逢瀬
出来上がった料理が運ばれてきて、富谷は手際よく自分と弥生の皿に取り分ける。
「ね、気のせいかもしれないけれど、そのナイフの持ち方、メスの持ち方っぽくない?」
ふと、弥生は手元を見て聞くと、富谷はああ、とナイフの持ち方を変えた。
「メスの持ち方になってたね。でも俺の代謝科は手術はないから、メスを持つ事は無いよ」
「あ、そうか。でも専門の科を決める前には使っていたんでしょう?」
「勿論。大学生の時に、どの科でも行かれるように全部学ぶからね。同期で外科や整形外科を選んだやつは、手術の立ち合いやヘルプをしょっちゅうしているよ」
「大学病院に居れば、珍しい手術とか扱えるんでしょう?家を継ぐ継がないはともかく、そういう新しい事の出来る科を選ぼうとは思わなかったの?」
弥生の問いに、富谷は食べる手を止めて、ちょっと口をとがらせる。
「まぁ思わなかった訳ではないけどね、でもやっぱり家の事があるから、家庭医としてやっていける科を選ぶのが必然だったんだ」
「ちなみに何科をやってみたかったの?」
弥生は首を傾げて聞いてみる。
「手術はないけれど血液の科だね。複雑な血の病気を研究していきたいとも思っていたんだ」
「血の病気…」
「そう、昔は白血病なんて言うと死の病みたいなものだったけれど、今は治療法があるから生きている率がぐんとあがっているんだ。他の難病に指定されている病気も、適切な治療や服薬で悪くなる事も無く、むしろ軽くなる人もいるんだよ」
血液の病気は治癒出来つつあるものと知り、弥生は驚く。