第20章 着替える
信長の前に出る事になった葉月。
朝から何故か秀吉のほうがウロウロ、オロオロ、していた。
「竹、わかってるな。御館様の前だから粗相のない姿にさせろ」
秀吉は葉月の部屋の前の廊下に立ち、中で着替えを手伝う女中頭の竹に言う。
「はい、秀吉様。お任せください」
時々葉月の「苦しい」やら「ううう」と言う、うめき声が聞こえるのは理由がわからないが、やがて襖が開き、竹がお待たせしました、と着替えさせた葉月を披露した。
それまでは地味な紫苑色の格子柄の小袖を着ていたのだが、地が桔梗色に白抜きの大振りの花が咲く柄の入ったそれに変わっただけで、ぐんと華やかさが増した。
化粧もそれまでは、してるのかしてないのかわからなかったのが、竹の手によって紅を注(さ)し、すっきりとしたもともとの美しい顔立ちに、凛とした雰囲気をまとい、別人のように見えた。
「驚いたな」
正直な感想がつい口から出る。
「ほほ。随分雰囲気が変わりましたね」
竹は、秀吉の驚き具合に満足したように笑みを浮かべる。
「こ、これなら、織田信長様の前に出て、おかしくないですか…っ」
疲れ切ったような表情で葉月は言う。
「…行く前から随分疲れたような顔してるな」
秀吉が気付いて言うと、葉月は待ってましたとばかりに言う。