第147章 富谷と富弥
家に戻ると、出産前には無かった赤ちゃん用の小さい布団が一式用意してあった。
「驚いたわよ、布団が無いんだもの。急いで買っておいたんだから」
母親に言われ、布団をすっかり忘れていた葉月は、ありがとう、と礼を言う。
「でもどうしてもとなったら、一緒に寝れば良いけどね」
葉月が言うと、母親が目を吊り上げる。
「何を言ってるの!葉月が成ちゃんを押しつぶしたらどうするのよ!」
「ええーっ」
真剣に押しつぶされるかもしれない、と孫の事を気遣う母親の様子に、驚く葉月だった。
成を布団に寝かせ、荷物を片付ける。
荷物の中に忍ばせていたのは、三成からの文。
わかりやすいように書かれた文字を、毎日開いて目にする。
「成、これ、おとうさんの字、だよ」
全然見えていない成に、三成からの文を広げて見せると、成が「ほげ」と軽く泣く。
「ああ…おなか空いたかな?」
入院中に母乳も出るようになり、成に乳首を含ませると、んくんくと吸うようになった。
「上手だねぇ、成」
成が乳首を離すまで飲ませ、げっぷを出して、文を見ながらしばらく抱っこする。