第144章 弥生と富谷
突然の富谷の告白に、弥生は目をぱちくりさせた。
「…え?…は?…私?…えーと…何かの冗談?」
「冗談でこういう事は言わないでしょ?」
富谷が真剣な眼差しになって弥生を見つめる。
「今日、こんな事を言うつもりなかったけれど…弥生さん、結婚前提にお付き合いして欲しいのですが、いかがですか?」
「…私?…って参ったなぁ…誰かとお付き合いもそうだけど、結婚自体を考えた事、なくてねぇ。仕事してるほうが性に合うものだから…いきなりそう言われても…ねぇ…」
戸惑いの表情で弥生は頭を掻く。
「今すぐでなくて良いよ、俺もまだ研修医でたいした収入も無いし、とにかく今は病院に詰めて症例たくさん診て学ばないとならないからさ。でも俺の気持ちを知っておいて欲しい。俺はずっと弥生さんを見てきたし、これからも貴女しか将来を歩んで行く人は思いつかないんだ」
「ずいぶん…熱烈に言われてるね…何で私なの?はっきり言うけれど、医者の奥さんって専業主婦で家の事を完璧にこなして、一人でもこどもを育てられる、家の事をやるのが向いている人がなるもんじゃないの?」
「そうかもしれないけれど…弥生さんならそれも出来ると思ってるけど」
富谷にさらりと言われ、弥生は益々困惑する。
そんな中料理が運ばれてきて、富谷がさっさと料理を取り分けてくれた。
「とにかく、俺はまだ研修医で勉強が必要な身だし、今すぐでなくていいから、俺の事、考えてくれないかな」
おかげで料理の味が、戸惑う弥生にはすっかりわからないまま、口に運ぶ事となった。