第144章 弥生と富谷
弥生は得心して、片手を握り、もう片手の手のひらに、握りこぶしを軽く打ち付ける。
一人で納得する弥生に、富谷はまゆを軽くひそめた。
「だから、下級生の子達は、将来の開業医夫人の座を狙っていたって事でしょ?」
「ああ、そうだね。それはわかっていたよ」
富谷は当時の事を思い出したようで、後頭部をぽり、と軽く掻いた。
「今はどうなってるの?研修医だって合コンくらい行くんでしょ?医者だと知ったらおんなのこ達、目の色変えて迫ってくるんじゃない?」
「…何でわかるの?」
嫌そうに富谷が言うと、弥生は軽く笑う。
「そりゃ、私もおんなだからね。ま、私は目の色は変えないけれどね」
「今は研修医でほとんど病院に詰めてるから、そういうの行く暇が無いけどね。
かえって面倒な事にならなくて済んでるよ。飲み会行くと、おんなのこ達の目線がこっちに向いてるのわかるから、もううっとうしいんだ。俺は合コンで彼女や結婚相手を見付けるつもりはないしね」
「ふぅん、ま、富谷くんも将来おうちを継ぐなら、奥さんになる人も同じ医者が良いよね?」
弥生が肩をすくめて言うと、富谷はまゆを再度ひそめた。
「あのさ、本気でそう思ってる?」
「…は?」
富谷の言葉に、弥生は戸惑いの声を上げる。
「俺、大学生の時から、弥生さん、貴女の事を気になっているんだけど」