第140章 成(なる)
看護師はそう言いながらベッドを設置し、部屋を出て行く。
「なる?なんだ、もう名前を付けたのか?」
「うん、つけたよ。ほら、ここに書いてるでしょ?『成』一文字で『なる』って言うの」
「俺が名付けようと思ったのに…」
父親が憮然とした顔をするので、やっぱりといった表情を葉月はする。
「成って言いやすくて良い名前じゃない」
弥生がその名前に同意するので、父親はそれ以上何も言わなかった。
そして、両親の間でどちらが先に成を抱っこするか言い争いとなる。
「私が先に抱っこさせてくださいな」
「いや、こういうのは俺が先だろう?」
「アホらし…」
さっさと弥生がその隙間から成を抱っこして、両親が『ずるい』という表情で弥生を見た。
「ほら、写メ撮って」
スマホを突き出し、葉月に写真を撮らせる弥生。
成に顔を擦りよせ、「んー可愛い」と言いまくる姿は、両親と変わらなかった。
結局弥生の次に、母親、父親の順に成を抱っこし、記念写真を撮りまくる。
その間にぷか、とあくびをする成を見て、全員で「あくびした、可愛い」と大騒ぎし、帰るまで隣室に迷惑ではないかと思うくらいに、うるさく騒ぎ立てた両親と弥生だった。
みんなが帰ると成が「ほげぇ」と小さく泣く。
「さすがに疲れたよね、それにおなかすいたんだね」
まだ出産したばかりで完全に出ないものの、葉月は乳首を成に含ませる。
「早く出るようにするからね、とにかく吸ってね」
んくんく、と口を動かした成だが、疲れてそのままこてんと寝てしまう。
仕方ないか、と葉月は成を新生児用ベッドに寝かせ、自分も布団にくるまり、小さくあくびを一度、した。