第135章 もう一人の『とみや』
「いや、今、気付きましたが、おなか大きいですよね。その感じだと出産近いようですし」
割烹着で気付かないと思っていたが、富谷はおなかの大きさに気付いたようだった。
「あ、わかりましたか?」
「ええ、ずいぶんおなかも下がっているようですし、予定日近いんですか?」
「はい、もう二日、過ぎちゃってるんです」
話しながら包装し、紙袋に注文を受けた菓子を入れて会計をする。
「大変お待たせしました。ありがとうございました」
紙袋を渡した時だった。
ぱしゃんと水がこぼれるような音がし、葉月があれ、と自分の足元を見ると、どこからこぼれたのか水たまりのように、水が溜まっていて、それは自分の足を伝っていた。
「うわわわわ、は、破水したっ!おかあさん、おかあさん!!」
驚いて葉月は奥に行った母親を呼ぶ。
「救急車呼んで!破水しちゃったよ!おかあさん、おかあさん!」
大慌ての葉月は、パニックを起こして泣きながら叫ぶ。
「落ち着いてください」
富谷に声を掛けられて、はっとする。
見ると富谷は自分のスマホを出して、袋を見て住所を伝え、救急車の手配をしていた。
「救急車呼んだから大丈夫。破水しても、今すぐにあかちゃんがどうこうならないから落ち着いて」