第135章 もう一人の『とみや』
「あー、えーと、ごめんなさい、人違いみたいでした」
男性に謝りながらも、その男性をこっそりショーケースの陰から見る。
『でも富弥って名前みたいだし…富弥さんも一緒にあの雲に包まれてこの時代に来たっていうの??それで記憶喪失になった??』
男性から「あぁ」と納得したような声が聞こえ、葉月が顔をあげると、男性は言った。
「貴女、もしかして葉月さんかな?弥生さんの妹さんでしょう?」
「は、はい…そうです。姉をご存知ですか?」
「私は学部は違うのですが、同じ大学でサークルが一緒だった富谷と言います」
「とみや…さん…」
「ええ、富山県の『とみ』に『たに』と書きます」
「それで富谷さん…」
葉月は、顔まであの戦国の富弥とそっくりで名前が同じ富谷と、何かつながりがあるのかもしれないと思う。
戦国の富弥に比べると穏やかそうな表情に、地味な姿ではあるものの清潔感と、いわゆるブランドものを嫌味なく着ている姿に、裕福な育ちなのかな、と推察する。
「姉とは…失礼ですが、ただのサークルの仲間ですか?」
葉月の突っ込んだ質問に、富谷は目をしばたたかせつつ、苦笑して言った。
「いやあ、私の片思いですよ。弥生さんのようなかたが好みでずっとアプローチしているのですがね、仕事が面白いからって断られ続けているんです」
「そ、そうなんですね、知りませんでした…」