第18章 支度
結局、朝餉の後、軍議に必要な巻き物を探して、城に行く刻限がきてしまい、政宗は秀吉の〈新しい台所番〉と思った人物に会うことなく城へ行った。
秀吉も三成も必要な資料を用意して後から登城する。
「失礼します」
登城前、支度をしている二人の前に、女中頭の竹が顔を出した。
「頼まれてました羊羹をご用意しました。
どうぞお城にお持ちください」
「え…あいつ、もうつくったのか…」
早い出来上がりに驚く秀吉。
「それなら何故、あいつが持ってこないんだ?」
秀吉はまさか、昨日の今日に頼んだ羊羹が出来上がるとは思わなかった。
そしてその出来上がったものを、直接持ってこない事を竹に聞く。
「ほほ。立場をわきまえてるんですよ」
「…ああ、そういう事か」
葉月は未だ誤解は解けていない。
御殿中で見張られている今、葉月が主である秀吉に会わないようにするのは当然だろう。
「いってらっしゃいませ」
三成と城へ向かうのに、女中頭の竹を始め、女中達が並んで見送る。
『…井戸のかたがいませんね…』
井戸にへばりついて水をよろよろ汲んでいた変わった娘は、その場にいなかった。
三成は、ちょっと、その変わった娘がいないのが気になった。
しかし、秀吉と軍議に必要な話しをしているうちに、その娘の事を思い出しもしなくなり、頭の中は戦術を練ることと後方支援に必要な補給について、と集中していく…