第123章 春日山
春日山城の宴会中、広間上段に謙信と信玄が座り、その下に幸村が控えていた。
「佐助はどこぞへ行ったのだ」
不機嫌そうに謙信は、何度めかの同じ言葉をつぶやいた。
「ですから急に身内に病人が出たので、看病する為に故郷に帰ったと言ってるじゃないですか。身内が治ったら戻るって言ってましたから、少し辛抱してくださいよ」
幸村が心底うざそうに答える。
「佐助の故郷はどこだ。今から俺も行く」
謙信は愛用の鶴姫一文字を片手にし、立ち上がる。
「何かえらく遠いところらしいですし、謙信様、無理言わないでくださいよ。
公務も有るのですから勝手な行動は駄目です」
幸村は必死に止め、信玄は参ったな、という表情で二人を見ている。
「信玄様も笑ってないで、この人止めてくださいよ」
「いやぁ、笑うというより俺も参ってるんだよな。佐助がいないと甘味をこっそり買ってきてもらえないからな」
「はぁ!?佐助にこっそり甘いものを買いに行かせてたんですか、あんたは!」
そして信玄の目の前に山盛りになっている甘味を見て、大きくためいきをついた。
「それ、没収。佐助に今後甘いものを買いに行かせるの、禁止」
「そんな冷たい事、言うなよ、幸」
幸村は謙信と信玄という、二人の大きな駄々っ子を相手に、疲れ切っていた。
『頼む、佐助、早く戻ってきてくれ…!』