第117章 姉、弥生
勿論一言、忘れない。
「とにかく、俺は、絶対産むのは認めないからな。
訳わからないおとこのこどもなぞ、早く堕胎しろ」
ふん、と葉月はそっぽを向き、父親が帰るのを見向きもしなかった。
「とにかく落ち着きなよ…はい、これ」
鞄から弥生が出したのは、葉月の好物のミルクティだった。
「あ、ミルクティ!おねえちゃん、ありがとう」
途端にころりと態度を変え、ミルクティのキャップをひねって口にする。
しかし、葉月は一口飲んだところで変な顔をして、飲むのを止める。
「何か…すっごい甘い。甘すぎて飲めない…」
「は…?だってこの甘さが好きだったでしょう?」
弥生は驚く。
「うん。でも、今は、甘すぎて飲めないよ…」
「あんた、一体、どこに居たの…?」
弥生は心底驚いて、味覚の変化した妹の顔を見つめた。
「おねえちゃんになら言っても良いかな」
ぼそりと葉月は言った。
そして、能面のような表情で、感情を隠した様子で葉月は言った。
「私ね、信じられないだろうけれど、戦国時代へタイムスリップしたんだよ」