第16章 出会い
餡は急いで前日のうちに炊いておいた。
朝早く起きて、葉月は御殿の台所の隅を借りて、あんず入り羊羹作りを始めた。
台所番の女中たちが集まる時間までに作り終え、冷ましている間に、葉月は朝餉作りの手伝いをした。
手伝い、と言ってもいつもは泥付き野菜を洗う程度だが、葉月にとっては井戸から水を汲むのも骨が折れる。
水は蛇口をひねるだけで出てくる生活から一変し、比較すると本当に重労働だ、と痛感する。
今日は羊羹作りで早くから台所に出ていたので、葉月は酢の物と汁物を作っておいた。
出来上がりを口にした女中頭の竹は、珍しいものを口にした顔で葉月の顔を見た。
「だ、ダメでしょうか…?」
「いえ。良いでしょう」
竹の顔にほっとした表情を浮かべる葉月。
この子は一体どういう環境で育ったのか。
竹は葉月の生い立ちに興味を持った。
井戸に来て、桶を落とす。
つるべを引き上げるが、これが慣れない身には、難しい。
井戸にへばりつくように水の入った桶を、おいしょおいしょと引き上げていたら、ひょいと急につるべが軽くなった。