第115章 言えない
舞のきっぱりとした話し方に、母親は一瞬無言になる。
しかし、やはり、何もわからないでは困る。
「言えないのはわかりましたけれど、どうして言えないのでしょう?
私はこの子の母親として、知る権利が有りますよ。
せめて誰の子を妊娠しているのか、それくらいは言えるでしょう?」
「だから言えないんだって。でも変な人じゃないよ。絶対絶対、私は産むよ」
泣き止んだ葉月も、ぐずぐずしながらも必死に言う。
「でも、どこの誰の子かわからない子を妊娠しているなんて、親として納得出来る訳ないでしょう?」
「とにかく」
舞が堂々巡りに入る親子を必死に止める。
「どちらにしても、私も葉月さんも、何もお話し出来ないんです。
でも、本当に、おかしいところに居た訳ではないのを、どうぞご理解ください」
「…私がたとえ納得したとしても、おとうさんが許す訳ないでしょう?」
母親は切り札ともいえる父親の存在を表した。
「…言えない、とにかく言えない。でも絶対産む。駄目なら家を出て行く」
葉月は繰り返す。
母親は大きくため息をついて言う。
「とりあえず私は貴女が目覚めた事をおとうさんに伝えて、貴女が何も言わない事を言います。おとうさんがどう出るか…私以上に頑固なおとうさんが何と言うのか、想像はつくけれど…とにかく『言わない』の一言じゃ、おとうさんを説得出来ませんよ」