第115章 言えない
「どうぞ」
声を掛けると静かにドアが開き、隣の部屋の舞が立っていた。
「舞さん…!」
葉月は舞の姿を見、声をあげる。
母親は一緒に倒れていたと聞いていた舞の姿を、初めて見る。
自分の娘も美人の類に入ると思っていたが、舞は更に美しく可憐な印象を受ける。
病院着を着て化粧っけもないが、たおやかな雰囲気は優しさを溢れさせていた。
「葉月さん…」
舞はベッドの横へ来て、葉月の手を握る。
「大丈夫だよ」
全てを包み込んだ舞の一言に、葉月はみるみるうちに涙をあふれさせ、舞に抱き着いてわんわんと泣き出した。
「大丈夫だから、ね?」
葉月の背中を優しくさすり、泣き止ませる舞。
そして、舞は母親のほうを向き、挨拶した。
「私は舞と申します。葉月さんとは、あるところで一緒にいました。
その場所は申し訳ありませんが、私達はお教え出来ません。
でもおかしいところではありません。
それに、私達のからだにおかしい傷は何もなかったと聞いてますよね?
ある場所で葉月さんはある男性と知り合い、結婚の約束もしています。
その男性は大変立派な人ですが、やはりこのかたの名前をお伝えする事は出来ません」