第115章 言えない
「…誰って、それは言えない」
葉月はさすがに妊娠相手が、戦国時代の石田三成とは言えない。
言ったところで信じてもらえないし、下手をすれば脳神経の検査までさせられそうだ。
「それは言えないって、貴女、その…乱暴でもされたの?」
言いにくい事だとは思うけれど、と母は注意をしながら問う。
倒れている舞と葉月が発見された時、ひととおりの検査は行い、更に女性医師がからだを見て、二人が特に監禁されたり乱暴をうけた形跡がないのはわかっていた。
しかし、自分の娘が誰かのこどもを妊娠していたら、母としては問わざるを得ないだろう。
「…されてない。その人を愛してる。でも誰かは言えない」
葉月としては、こう返事をするしか、ない。
「誰かわからない人のこどもを産むなんて許しませんよ」
母の強い言葉に、葉月ははっと顔をあげて、母親の顔を見る。
「…じゃあ、退院したら家を出て行く。私は絶対この子を産む」
葉月も強硬に言い返した。
「そういう事ではないでしょう。一人で育てられる訳ないし、相手の名前を言うだけなのよ?それとも貴女、相手は既婚者なの?」
「違う!絶対違う。でも、とにかく、名前は言えない」
不倫関係は否定し、でも、やはり相手の名前は言わない。
母親も言いにくいし、困ったところで、部屋のドアをノックする音が聞こえた。