第112章 戻った時代
三成様。
紫の瞳、紫を数滴落とした灰色の髪の毛、私を抱き締めてくれた身体。
貴方は夢の人だったの?
葉月が思い出した時、腹に痛みを感じ、右手で腹を擦った。
自分の腹が自分一人の物でない、と気付く。
『私、妊娠している…誰の…三成様…でもここは…』
母親が覗き込んでいる中、状況をようやく理解する葉月は、どこを見るともなく目を見開いて絶句した。
「葉月、どうしたの?どこか痛いの?看護師さん呼ぼうか?」
母親が心配して声を掛けるが、今はそれどころではない。
『何で、何で、何で。私は戻って来ちゃったの?
だってこれからだったのに。三成様の子を産んで、一緒に育てるのに。
どうやったら戻れるの…』
そこへ、気が付く。
あの時、舞さんが一緒だった。
舞さんは現代に戻る事は無かったのだろうか?
「おかあさん、私とおんなの人が一緒じゃなかった…?」
恐る恐る母親に舞さんの事を聞く。
「貴女と一緒に見つかった人なら、隣の病室にいますよ?」
母親は不思議そうに言い、続けて質問してきた。
「一緒だった人の事、知ってるの?あの人は誰?
貴女達いったいどこにいたの?」
母親の問いは止まらない。
「それに貴女達、どうして着物姿なの?それに…」
一呼吸置いて、母親は恐る恐る葉月に問うた。
「葉月、貴女、誰の子を妊娠しているの…?」