第109章 出陣
家康が先発して出陣した。
葉月は三成を城へ行って見送りたいが、妊婦は不浄のものと竹に止められ、三成の御殿に泊まりこんで見送る事とした。
「絶対無事に戻ってきてくださいね」
戦の無い時代から来た葉月には、甲冑を身に着けたおとこ達を見るのが初めてで、時代劇のようだなと思いつつも、その反面、戦だから殺し合いに行くという事も理解して、平和な時代との違いに何も言えなくなっていた。
顔をこわばらせている葉月を見て、三成は頬を撫でた。
「大丈夫ですよ。そんなにおおごとな戦にはならないでしょうから」
「それなら良いのですけれど…私はこういう時の勝手がわからないので…」
三成が出陣前に家臣へ酒を注ぐのを、離れた部屋から眺めるしか出来ない葉月は、背中がぞわりと粟立つのを感じていた。
『戦争なんだ…あの中の人達が何人戻れないのか…それが当然って事…
足軽の人達は更に戻れない人が多くいる…んだよね…
なんで、死ぬかもしれないのに、戦うんだろう…どうして殺し合うんだろう…』
その部屋から聞こえる鎧や甲冑の擦れ合う金属音を耳にしながら、葉月はそっと自分の居る部屋の襖を閉めた。
『怖い、怖い、怖い…もし、知っている人に何かあったら…』
ずるりとその場にへたりこみ、顔を覆う葉月。
-昭和の戦時中の女性たちも同じような思いで、自分の家族を送ったのだろうか。
-帰ってこない可能性の高いところへ、それでも国を信じて、夫や息子、孫たちを…