第107章 会わないうちに
葉月も戦の準備がどれほどのものかわからないものの、竹から聞いて三成が忙しいのは仕方ない、と思うようにし無事に戻れるよう、御殿から祈っていた。
そんな中、体調が良いうちに、という事で葉月が秀吉の養女として正式に迎えられた。
養女と言っても元の家や家族が居る訳でもないので、秀吉と葉月、二人の間で親子の杯を交わした簡素なものだった。
「おとうさま、これからよろしくお願い致します」
「…父という程、年は離れてないんだけどな」
秀吉が苦笑しながら言うと、葉月が慌てて弁解する。
「あ、ごめんなさい、秀吉様。どう言っていいのかわからなくて…」
「ああ、わかっているから気にしなくて良い。形式だからな、こういうのは」
「すみません…」
恐縮する葉月に秀吉は笑って言ったが、すぐ表情を引き締めて三成の事を言った。
「あいつはこれから、家康の後方支援として出陣が控えている。
しばらくおまえと会えていないのはわかっているだろうが、あいつの事だ、出陣までにきちんと準備を終えて、葉月に会いに来るだろうから待っているんだぞ」
「はい。戦の支度がどういうものか、はっきり言ってわかりませんけれど、忙しいのは理解しているつもりなので待ってます」
「…そうだよな、葉月は戦の無い世から来たんだもんな。未来は全く戦は無いのか?」
「少なくとも500年後のこの国で戦はないですよ。世界の他の国ではどこかしらで、いろんな理由で戦いはしてますけれど…一番多いのは宗教絡みでしょうか…」
「宗教絡みで世界のどこかで戦、か…どこも時代が変わっても理由は変わらないんだな」
秀吉はふぅとため息をついた。
「ま、この国で戦が無い事は、とりあえず良かったな」
「秀吉様、戦の無い世を作る礎は、戦国武将の皆さまなんですよ」
葉月が言うと、秀吉は少し目を見開いた。
「この先、戦が一度無くなります。また起こるのは起こるのですけれど、その一度無くなる時代の礎を作るのが、皆さまなんです」
「へぇ…そうなのか、俺達が日の本の平和を築く事が出来るのか…」
「はい、そうなんです」
言われた事を反芻するように、秀吉はじっと杯を見つめていた。