第107章 会わないうちに
「ほう、あの大名が俺の名を盾に、民に好き勝手なふるまいをしておるとな」
信長は脇息によりかかったまま、光秀の報告を聞いていた。
「はい、報告によりますと、税の取得が民の生活が出来なくなる程絞り取り、それを信長様へ献上するため、と偽っております。
実際、安土へ民から搾取したものが届いた、という報告はありません」
「ふん、くだらぬ事をやる輩がまだ居るのか」
「信長様が出陣するまでもありません、俺が行ってきましょう」
政宗が青い瞳を爛々と輝かせ、信長にまるで気軽に旅にでも行くような調子で言う。
「政宗さんは先日、出陣したばかりでしょ、ここは俺が行きます」
家康も自分が行くと名乗りを上げる。
「…そうだな、政宗は出陣したばかりだ。
兵を疲弊させぬのも将の勤め、今回は家康、貴様に出陣を命ずる。
後方支援に三成を連れて行け」
最後の一言に家康は露骨に嫌な顔を見せるが、嫌でも本人の能力は認めざるを得ない。
「かしこまりました」
「家康様、尽力致します。よろしくお願い致します」
本人と能力を天秤にかけ、家康は素直に命に応じ、三成の挨拶にああ、と頷いた。
すぐ、二人の間で出陣の支度を始める。
作戦を練り、整える人数と武器、日数によっての兵站の用意と救護兵とその準備。
三成は葉月が無論気になるが、自分の仕事を疎かにはせず葉月に文を送っただけで、会えない日が続いているのは仕方ないと割り切るようにしていた。