第104章 つわり
ある日、舞が秀吉の御殿を尋ねてきた。
「葉月さんがつわりで苦しんでるっていうからお見舞いに来たの」
「ありがとうございます、舞様、さ、どうぞ」
竹が挨拶し、葉月の部屋へ舞を案内する。
「舞様、わざわざありがとうございます」
付き添っていた三成が舞の来訪を喜んで礼を言う。
気にしないで、と舞は気軽に言って、横になる葉月の顔を見る。
「あららら、ずいぶん痩せちゃったね。
でも、これなら、食べたいかなって思われるものを持ってきたよ」
手持ちの風呂敷包みを解いて、中からお重を取り出す。
出てきたのは、山芋の素揚げに軽く塩を振ったもの。
「ポ…ポテト…」
見た瞬間、がば、と葉月は起き上がり、渡されたお箸を手にし、お重に手を伸ばす。
三成が呆然と見ている中、気にせず、山芋を一つ口に運ぶ。
「うう…美味しい…じゃがいもだったら最高だけど、これでも食べられる…!」
「ふふ、やっぱりね」
舞が得意げな笑みを浮かべ、三成は訳がわからないといった体で舞に言う。
「舞様、ありがとうございます。
でも、どうして葉月さんが食べられるものがわかったのですか?」
「んー私の身内がそんな感じだったのね。
でも唯一食べたのがお芋を素揚げしたものだったから、これなら、と思ったんだ」
そして毎日、山芋の素揚げが出てくるうち、最初は喜んでいた葉月は飽きて、また食べなくなってしまい、三成は再びおろおろするだけだった。
その様子を見ていた秀吉は、まだ妻の居ない身で自分も状況がわからない。
「落ち着け、三成」
と言葉を掛けるしか出来なかった。