第14章 忘れ物
場所が変わって三成の御殿―
「失礼します」
先程、葉月に応対した女中が、廊下から声を掛ける。
「…はい、どうしましたか?」
穏やかな少し高めの声が、襖の内側から耳に入ってくる。
「秀吉様の御殿にお忘れ物をされた、と遣いのかたが本を届けに来られました」
「…ああ、やはり秀吉様のところに忘れていたのですね…
すみませんが、中の書棚に置いておいてください」
「…かしこまりました」
女中は途端に顔をうす赤くし、目を輝かせる。
静かに襖を開ける。
文机の前にその憧れの相手が座って、文を書いていた。
女中はしばらく動けず見惚れていた。
「…どうか、しましたか?」
三成は顔を上げ、女中を見る。
真正面から見られ、女中は更に顔を赤くし、急いで本を書棚に置きに行く。
「し…しつ、れい、しました…」
「ありがとうございます」
文から顔をあげ、女中のほうを見てにっこりお礼を伝える三成に、女中は目を見開いて更に赤くなり、すぐさま頭を下げ部屋を出ていった。
「いったい、どうしたんでしょう…?」
慌てて部屋を出る女中に、首を傾げる三成だった。